マンション管理士の森です。このコーナーでは、マンションを取り巻くトラブル事例を中心に毎回テーマを1つとりあげ解決策をみつけていきたいと思います。
前回は、管理費や修繕積立金の「持ち逃げ」や「使い込み」の実態について具体的事例をみてきました。過去の事例をみると大きく2つのパターンに分けることができます。
ひとつは理事長や会計担当職にある者(通帳や印鑑を所持している者)いわゆる管理組合内部の問題として発生した「使い込み」、もうひとつは管理会社(管理会社自体の組織的犯行か担当者による犯行)による管理組合外部の委託先の問題として発生した「使い込み」に分けることができます。
検挙された事例として、沖縄県では昨年3月、マンション分譲大手の系列管理会社社員が2000年~2008年までの8年間に、担当する県内の19の管理組合で合計約8000万円を横領していたことが明らかになりました。長崎市では昨年7月、市内にあるマンションの管理人が数年間にわたり約2億円を着服していたことが判明。さらに、静岡県では県内のマンションで会計担当をしていた理事が修繕積立金を横領したとして起訴され、今年5月、その初公判で横領金額が総額1億3690万円にのぼることがわかりました。
ある64戸の分譲マンションでは、理事長が持ち回りで担当していたのですが、1年前に窓口となった理事長が自分の手元にある通帳及び印鑑を利用して、勝手に120万円を使込んでいたことが発覚しました。この使い込まれた120万円を返還するよう、住人がマンション総会で求めているのですが、「近いうちに返済すると言い」、いっこうに返還されません。下手をすると逃げられる可能性も有り、どのような対処をすればよいか困って相談にきたという事例があります。この理事長は、自分の遊興費に充てるため一時的に借用したが、決算期までには口座に返金しておくつもりであったため堂々と払い出しを行っておりました。
一般的には、架空書類を作成したり残高証明書を偽造するなどの手口を使って犯行をごまかすケースが圧倒的に多いのですが、上記のケースでは堂々としております。だます方が悪いのか、それともだまされる方が悪いのか――。元をただせば、一体誰が管理費や修繕積立金(以下「管理費等」)を管理しなければならないのか、意識が足りないことに問題があるように思われます。
予防策としては、預金を勝手に引き出せないような仕組み作りが重要です。
こうした管理費等の横領事件は、例をあげれば際限なく続いています。管理をしていたはずの会計担当理事や他の役員はどの程度責任を感じていたでしょうか。「自分たちのもの」「自ら管理しなければ他の人はチェックしない」という意識と日常的な監視の眼が張り巡らされていれば、こうした事件は起こらなかったように思います。
管理費等が横領あるいは着服されるのは、簡単に口座のお金が引き出せることによります。つまり、自由に引き出せないようにすれば、大方は解決したことになる。通帳の名義を管理組合名義となっているかチェックして頂きたい。同時に、通帳と印鑑の取り扱いにも十分な配慮が必要です。せっかく管理組合名義になっていても、心ない組合員に両方を預けてしまうと、勝手に引き出されてしまう危険があるからです。たとえば印鑑は理事長、通帳は会計担当理事がそれぞれ管理するといったように、1人に権限を集中させず、分散させる体制を敷くことが重要です。さらに払い出し票の数字の記載にあたっても変更が加えられないように記載し、大きな金額の場合は必ず2名以上にて払い出し・振り込みに行くことが不祥事防止に有効です。
多発するトラブルを受けて昨年5月、国土交通省が「マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則」の一部を改正した。これは、主として管理会社担当者による流用等の不祥事の再発防止に狙いをつけています。
骨子は、
- 管理組合財産の分別管理につき、3種類の方法を定める
- 保証契約の締結の厳格化
- 管理会社による印鑑等の管理の原則禁止
- 会計の収支状況に関する書面交付の義務化
をあげています。
【参考 マンション管理の適正化の推進に関する法律施行規則】
(財産の分別管理)
第八十七条
法第七十六条の国土交通省令で定める財産は、管理組合又はマンションの区分所有者等から受領した管理費用に充当する金銭又は有価証券とする。
2 法第七十六条に規定する国土交通省令で定める方法は、次の各号に掲げる場合に応じ、それぞれ当該各号に定める方法とする。
一 修繕積立金等が金銭である場合次のいずれかの方法
イ マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金等金銭を収納口座に預入し、毎月、その月分として徴収された修繕積立金等金銭から当該月中の管理事務に要した費用を控除した残額を、翌月末日までに収納口座から保管口座に移し換え、当該保管口座において預貯金として管理する方法
ロ マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金(金銭に限る。以下この条において同じ。)を保管口座に預入し、当該保管口座において預貯金として管理するとともに、マンションの区分所有者等から徴収された前項に規定する財産(金銭に限る。以下この条において同じ。)を収納口座に預入し、毎月、その月分として徴収された前項に規定する財産から当該月中の管理事務に要した費用を控除した残額を、翌月末日までに収納口座から保管口座に移し換え、当該保管口座において預貯金として管理する方法
ハ マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金等金銭を収納・保管口座に預入し、当該収納・保管口座において預貯金として管理する方法
ニ 修繕積立金等が有価証券である場合 金融機関又は証券会社に、当該有価証券(以下この号において「受託有価証券」という。)の保管場所を自己の固有財産及び他の管理組合の財産である有価証券の保管場所と明確に区分させ、かつ、当該受託有価証券が受託契約を締結した管理組合の有価証券であることを判別できる状態で管理させる方法
3 マンション管理業者は、前項第一号イ又はロに定める方法により修繕積立金等金銭を管理する場合にあっては、マンションの区分所有者等から徴収される一月分の修繕積立金等金銭又は第一項に規定する財産の合計額以上の額につき有効な保証契約を締結していなければならない。ただし、次のいずれにも該当する場合は、この限りでない。
一 修繕積立金等金銭若しくは第一項に規定する財産がマンションの区分所有者等からマンション管理業者が受託契約を締結した管理組合若しくはその管理者等(以下この条において「管理組合等」という。)を名義人とする収納口座に直接預入される場合又はマンション管理業者若しくはマンション管理業者から委託を受けた者がマンションの区分所有者等から修繕積立金等金銭若しくは第一項に規定する財産を徴収しない場合
二 マンション管理業者が、管理組合等を名義人とする収納口座に係る当該管理組合等の印鑑、預貯金の引出用のカードその他これらに類するものを管理しない場合
4 マンション管理業者は、第二項第一号イからハまでに定める方法により修繕積立金等金銭を管理する場合にあっては、保管口座又は収納・保管口座に係る管理組合等の印鑑、預貯金の引出用のカードその他これらに類するものを管理してはならない。ただし、管理組合に管理者等が置かれていない場合において、管理者等が選任されるまでの比較的短い期間に限り保管する場合は、この限りでない。
5 マンション管理業者は、毎月、管理事務の委託を受けた管理組合のその月(以下この項において「対象月」という。)における会計の収入及び支出の状況に関する書面を作成し、翌月末日までに、当該書面を当該管理組合の管理者等に交付しなければならない。この場合において、当該管理組合に管理者等が置かれていないときは、当該書面の交付に代えて、対象月の属する当該管理組合の事業年度の終了の日から二月を経過する日までの間、当該書面をその事務所ごとに備え置き、当該管理組合を構成するマンションの区分所有者等の求めに応じ、当該マンション管理業者の業務時間内において、これを閲覧させなければならない。
6 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 収納口座 マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金等金銭又は第一項に規定する財産を預入し、一時的に預貯金として管理するための口座をいう。
二 保管口座 マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金を預入し、又は修繕積立金等金銭若しくは第一項に規定する財産の残額(第二項第一号イ若しくはロに規定するものをいう。)を収納口座から移し換え、これらを預貯金として管理するための口座であって、管理組合等を名義人とするものをいう。
三 収納・保管口座 マンションの区分所有者等から徴収された修繕積立金等金銭を預入し、預貯金として管理するための口座であって、管理組合等を名義人とするものをいう。
(管理事務の報告)
第八十八条
マンション管理業者は、法第七十七条第一項の規定により管理事務に関する報告を行うときは、管理事務を委託した管理組合の事業年度終了後、遅滞なく、当該期間における管理受託契約に係るマンションの管理の状況について次に掲げる事項を記載した管理事務報告書を作成し、管理業務主任者をして、これを管理者等に交付して説明をさせなければならない。
一 報告の対象となる期間
二 管理組合の会計の収入及び支出の状況
三 前二号に掲げるもののほか、管理受託契約の内容に関する事項
最後に管理費等を横領されないためのチェックポイント
- 管理費等の収納口座が管理組合の名義になっているか?
- 通帳・印鑑・キャッシュカードが分散管理されているか?
- 特定の組合員が長期にわたって管理していないか?
- 会計担当理事や監事による出納のチェック体制が整えられているか?
- 会計報告が定期的になされているか?