日本住宅性能検査協会 【建物検査研究会】

一級建築士を中心とした、建築系専門資格者によって構成される研究会です。営利企業とは異なるNPOとしての客観的・公正な支点から、適切な建物検査のあり方を研究しています。第三者として厳しい判断やアドバイスを行い、消費者が安心して住宅を購入できる環境作りを目指します。 

金属等によって物理的に補強をし、計算上必要な構造耐力を確保することが全く不可能ではないとしても、解体再築の必要がある場合を認めた。

〔熊本地裁平成10年1月29日判決〕

【建物プロフィール】

木造軸組。自宅を新築途中に請負人との間で紛争となり、瑕疵の有無を一通り確認のうえ、合意書を作成して合意解約した。その後に、本件建物について構造上の安全性能について問題が発見された事例。

【入手経路】

平成元年8月ごろ 工事請負契約(代金1886万1173円)

平成元年10月ごろ 住宅金融公庫の中間検査

平成2年2月20日 合意書作成し、工事請負契約を合意解約

【相手方】

請負人

建築士

【法的構成】

 請負人⇒瑕疵担保、不法行為

 建築士⇒債務不履行

【期間制限】

争点とならず。

【判決の結論】

1 請負人に対する請求は認容し、建築士に対しては棄却。

  施主が、当初は別人に監理を委託していた事実があり、本件建物の瑕疵もその間に生じたものであるため。

2 判決の法律構成

  瑕疵担保

  不法行為構成については,判示の必要がないため、記載がない。

3 請求額と認容額

  請求額⇒2360万1388円

  認容額⇒1266万5971円

     内訳:解体再築費用、慰謝料、弁護士費用を損害としたが、他方で、施主にも3割の過失があるとして、過失相殺を行っている。

【認定された欠陥】

  • 筋交いの不足・切断(施行令46条3項・4項違反)
  • 火打ち材の不足(施行令46条3項違反)
  • 通し柱の不足・欠き取り(施行令43条4項違反)
  • 構造耐力上必要な軸組みの不足(施行令46条4項違反)
  • 柱・梁・土台・筋交いその他重要部分の不完全な接合(施行令47条1項違反)
  • 柱の著しい傾き

【コメント】

1. 紛争途中での「示談書記載以外には瑕疵はない」旨の合意

  上記合意が存在しても、それは構造上の安全性能に問題がある場合を含まない、として合意の及ぶ範囲を合理的に制限している。

2.瑕疵の認定について

  木造軸組み建物についての典型的な欠陥及びそれを根拠付ける建築基準法施行令が網羅されており、整理に役立つ。

3.解体再築の必要性について

  本判決は「仮に金属等によって物理的に補強をし、計算上必要な構造耐力を確保することが全く不可能ではないとしても」、なお解体再築の必要がある場合を認め、かつ、民法上、損害賠償が交換価値の減少に限定される理由はないと判示。

  論証も具体的でわかりやすく、説得力がある。

4.住宅金融公庫の中間検査について

  「住宅金融公庫の検査は、融資対象としての適格を有する住宅が建築されているか否かという観点から行われるものであって、注文者と請負人間の瑕疵修補請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権に影響を与えるものではない」と判示。

  公庫検査の実情に即した内容であり、正当である。

用語説明

火打ち材

火打ち材とは、床や天井裏に使われる斜めの補強材のこと。

木造建物で、水平に直交する部材の接合部・交差部がしっかりと固定されるよう、斜めにかけわたされた補強材のこと。地震の時などに建物の角がゆがまないように、土台面、床面、梁面などに必ず入れる部材のひとつ。土台の交わるところに入れるものを「火打ち土台」、胴差しや梁まわりに取り付けるものを「火打ち梁」という。現在では金属製の火打ち材もある。

通し柱

通し柱とは、多層階建ての木造建築物で、すべての階を貫く切れ目のない柱のこと。
2階建て以上の建築物で使用される構造用の柱で、土台から軒まで通った継ぎ目のない柱のこと。建築基準法では、上階からかかる力の伝達が的確にできるように、木造建築の構造躯体を支える躯体に設けられる隅柱や隅柱に準ずる柱は、通し柱とすることになっている。住宅では、各階ごとに設置される柱の管柱よりも太い、12cm×12cmの4寸柱が用いられることが一般的。また、平面図では、通し柱の位置をほかの柱と区別できるように表記する

 

 

<参考文献>

判例タイムズ社

民事法研究会

 

日本住宅性能検査協会 【建物検査研究会】