日本住宅性能検査協会 【建物検査研究会】

一級建築士を中心とした、建築系専門資格者によって構成される研究会です。営利企業とは異なるNPOとしての客観的・公正な支点から、適切な建物検査のあり方を研究しています。第三者として厳しい判断やアドバイスを行い、消費者が安心して住宅を購入できる環境作りを目指します。 

中古住宅の天井裏にコウモリが棲みつき大量の糞により汚染されていたことは建物の、「隠れたる瑕疵」にあたる

〔神戸地裁平成11年7月30日判決〕

【建物プロフィール】

築後8年の木造スレート葺き2階建て中古住宅。平成10年に前所有者(個人)から、売主側・買主側2社の仲介会社を経て原告が購入した。

購入後、天井裏部分にコウモリが棲みついており、大量に糞が蓄積して天井ボードや断熱材に多くのシミがあることが発見された。

【入手経路】

中古住宅売買(売買代金/土地代込み3380万円)

【相手方】

  売主

  仲介業者(売主側、買主側)

【法的構成】

売主⇒不法行為、瑕疵担保(損害賠償)、不完全履行

売主側仲介者⇒不法行為

買主側仲介者⇒債務不履行

【期間制限】

争点とならず。

【判決の結論】

 仲介業者に対する請求は、棄却。

 売主に対する瑕疵担保損害賠償を一部容認。

  請求額⇒358万4000円

  容認額⇒128万4000円

【認定された欠陥】

中古住宅の天井裏にコウモリが棲みつき大量の糞により汚染されていたことは建物の、「隠れたる瑕疵」にあたる

【コメント】

瑕疵担保責任の「隠れたる瑕疵」につき、家屋内に棲みついたの生物【及びその糞尿】の影響を「瑕疵」と認めた判例。

ただ、仲介業者に対する請求については、善良なる管理者の注意義務をもって目的不動産の調査を行う義務までは認めながらも、「コウモリ等が居住の妨げになるほど棲息しているかどうか天井裏等まで確認調査すべき義務までは、それを疑うべき特段の事情がない限り負わない」として、棄却している。

売主(個人)に対する請求について、①不完全履行の主張は「一般人にとって健全な居住に適する性状」を備えた状態で引き渡す債務を特定物ドグマを理由に排斥し認めなかった。

しかし、②瑕疵担保の主張は「巣くった生物の特性や棲息する個体数によっては、一般人の立場からしても、通常甘受すべ期限を超え、そのグレードや価格に応じた快適さを欠き、そこでの起居自体に支障を来たすこともあるから、そのような場合には、かかる生物の棲息自体が建物としての瑕疵となりうる」と判断した。

損害の範囲としては、売主にはコウモリの駆除や補修に要する費用を予見できたと認定の上、コウモリの糞尿で汚損した天井ボード・断熱材等の取替え費用、コウモリの進入した通風口の閉鎖及び新たな通風口設置について工事費用の実額を認め、慰謝料は認めなかった。なお、慰謝料について、コウモリも駆除され汚損部分の補修もされているのであるから以上のほか、なお金銭をもつて償うべき精神的苦痛があるとは認めがたいとして棄却しているが、紛争の実態を反映していない認定である。なお、弁護士費用も15万円と定額である。

コウモリは「全く害獣とまではいえないが」一般的に不気味なイメージで見られている、との裁判官の個人的趣味を窺い知ることができて興味深いといえる。

用語説明

「隠れたる瑕疵」

瑕疵」とは「きず」「不具合」「欠陥」という意味である。

「隠れたる瑕疵」とは、特定物(新築住宅・中古住宅・土地など)の売買契約を締結した時点において、買主が知らなかった瑕疵であり、かつ買主が通常要求されるような注意力を働かせたにもかかわらず発見できなかった瑕疵のことである。
例えば中古住宅の売買において、屋根の一部に欠陥があったため、引渡し後に雨漏りが発生したとする。

この場合、屋根の欠陥が「瑕疵」に該当する。

そして買主が売買契約当時にこの欠陥があることを知らず、かつ買主が通常要求されるような注意力を働かせても、この欠陥を発見することができなかったであろう場合には、この欠陥は「隠れたる瑕疵」に該当すると言える。

民法(第570条)では、特定物の売買契約において、その特定物に「隠れたる瑕疵」があったとき、売主は買主に対して「瑕疵担保責任」」を負うものと規定している。
このため、隠れたる瑕疵があるとき、買主は売主に対して原則的に、損害賠償などの請求をすることができる(民法第570条)。

 

<参考文献>

判例タイムズ社

民事法研究会

 

日本住宅性能検査協会 【建物検査研究会】