マンション管理士の森です。このコーナーでは、マンションを取り巻くトラブル事例を中心に毎回テーマを1つとりあげ解決策をみつけていきたいと思います。

前回は、「ペットの飼育問題」について考えてみました。今回は、管理費や修繕積立金の「持ち逃げ」や「使い込み」の実態について考えてみましょう。

このテーマをご覧になられた皆様の過半数以上の方は「自分のマンションは大丈夫」と思ってはいませんか?ついつい自分の住んでいるマンションについては甘く考えがちです。

管理会社の担当者任せか、理事長や会計担当理事任せ(特に長年同じ人が就任しているケースや自主管理の場合に多い)でチェックする人がいない、という会計監査・理事会が機能していない場合、あるいは油断が生じたときに発生しているケースがみられます。

 

以下に実際に発生したケースを取り上げます。

  1. 同じ理事長が5年以上就任し、修繕積立金の預金通帳・印鑑を保持していたのを利用し、自分の株式投資に積立金を長年流用していたということがありました。年に一度の決算総会には計算上の積立金残高と合うように直前に通帳に金を補充し、残高証明書を提出していたやり口です。残高証明書の金額は合っていますから、毎年不正の事実は分からず、結局株投資が破綻し、返済できなくなり、理事長が夜逃げしたときに気がついた。
  2. 大規模修繕工事が終了した際に、5000万円ある工事代金を振り込むために、理事長が、預金通帳及び押印・金額が記載された銀行の払い出し票を長年務めていたマンション管理人に預け振り込みを依頼したところ、管理人は払い出しのみ行い、振り込まずにドロンした。
  3. 大規模修繕工事をする際に、今までの修繕積立金残高では不足するため、各戸より平均50万円程度の一時金を徴収することとしたが、その徴収事務を管理会社担当者に任せたところ、約1000万円程度の使い込みをされた。

 

1は、毎年の決算期に、残高証明書以外に預金通帳のコピーを取るなどして、金銭の流れをチェックしていれば防げたケースです。あるいは、マンネリ防止のため数年務めたら理事長の交代をするなどの予防措置をとっていたら防げました。

2は、大金を引き出す場合に役員数人で銀行に行くなどの配慮があれば、問題は防げたはずです。

3は、徴収事務は管理会社の担当者に任せたとしても、通帳は理事長や会計担当理事が常時保持し、管理していれば防げた事案です。実際には、振り込み以外に管理会社担当者への現金での払い込みを認めていたため、被害額の最終的な把握が遅くなったということがあります。

これら以外にも、管理会社にすべてお任せで修繕積立金通帳も印鑑も預けていたケースで、管理会社が組織的に流用していた事案も発生しております。

具体的な防止対策としては、

  • 6か月に一度会計監査を行う
  • 預金通帳と印鑑を別人の保管として相互チェックを図る
  • 払い出し・振り込み時のルールを定めておく
  • マンション管理士を有料監査人として活用する

などがあります。

しかし、もっとも重要なのは、区分所有者全員で「常に監視の目を光らせていること」です。同じマンションの住民だから、長年務めた管理人だから、ずっとやってくれた理事長サンだから、という何の疑いもかけない状態が最も危険な状態を招くことになります。

 

以下、国土交通省の標準管理規約(単棟型)から修繕積立金の管理関連の参考条文

(修繕積立金)

第28条 管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。

一、 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕

二、 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕

三、 敷地及び共用部分等の変更

四、 建物の建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査

五、 その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理

2 前項にかかわらず、区分所有法第62条第1項の建替え決議(以下「建替え決議」という。)又は建替えに関する区分所有者全員の合意の後であっても、マンションの建替えの円滑化等に関する法律(以下本項において「円滑化法」という。)第9条のマンション建替組合(以下「建替組合」という。)の設立の認可又は円滑化法第45条のマンション建替事業の認可までの間において、建物の建替えに係る計画又は設計等に必要がある場合には、その経費に充当するため、管理組合は、修繕積立金から管理組合の消滅時に建替え不参加者に帰属する修繕積立金相当額を除いた金額を限度として、修繕積立金を取り崩すことができる。

3 管理組合は、第1項各号の経費に充てるため借入れをしたときは、修繕積立金をもってその償還に充てることができる。

4 修繕積立金については、管理費とは区分して経理しなければならない。

 

(理事)

第40条 理事は、理事会を構成し、理事会の定めるところに従い、管理組合の業務を担当する。

2 会計担当理事は、管理費等の収納、保管、運用、支出等の会計業務を行う。

 

(監事)

第41条 監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況を監査し、その結果を総会に報告しなければならない。

2 監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。

3 監事は、理事会に出席して意見を述べることができる。

 

(議決事項)

第48条 次の各号に掲げる事項については、総会の決議を経なければならない。

一、  収支決算及び事業報告

二、  収支予算及び事業計画

三、  管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法

四、  規約及び使用細則等の制定、変更又は廃止

五、  長期修繕計画の作成又は変更

六、  第28条第1項に定める特別の管理の実施並びにそれに充てるための資金の借入及び修繕積立金の取崩し

七、  第28条第2項に定める建物の建替えに係る計画又は設計等の経費のための修繕積立金の取崩し

八、  修繕積立金の保管及び運用方法

九、  第21条第2項に定める管理の実施

十、  区分所有法第57条第2項及び前条第3項第三号の訴えの提起並びにこれらの訴えを提起すべき者の選任

十一、 建物の一部が滅失した場合の滅失した共用部分の復旧

十二、 区分所有法第62条第1項の場合の建替え

十三、 役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法

十四、 組合管理部分に関する管理委託契約の締結

十五、 その他管理組合の業務に関する重要事項