マンション管理士の森です。このコーナーでは、マンションを取り巻くトラブル事例を中心に毎回テーマを1つとりあげ解決策を見つけていきたいと思います。

前回は、「ペットの飼育問題」について考えてみました。今回もこの問題について考えてみましょう。

今年の5月13日に、東京地裁立川支部は、野良猫に対する餌やりの禁止と慰謝料など計約200万円の支払いを命じた判決を出しました。これは、東京都三鷹市の集合住宅で将棋の加藤一二三・九段(70)が野良猫に餌をやり、ふん尿などで迷惑しているとして、住民らが起こした訴訟の判決です。

市川正巳裁判長は判決理由で「餌やりが動物愛護の精神に基づくことは理解できるが、被害が続いており、住民の受忍限度を超えている」と指摘した。判決などによると、加藤さんは1993年ごろから野良猫に餌をやり始め、一時は十数匹に。ふん尿で異臭がしたり、駐車場の車が傷つけられたりした。住宅の管理規約には迷惑行為を禁止する条項があり、住民側は2002年ごろから加藤さんに警告していたが、受け入れられなかった。調停も不調に終わり、2008年に提訴した。裁判で住民側は「野良猫をペットとして飼っていた」と主張したが、加藤さん側は、動物愛護の観点から野良猫増加の防止が目的だと反論していた。

加藤一二三さんの話

「天寿をまっとうさせてやりたいと猫を大事にしてきたのに、理解に苦しむ判決だ。判決が出たからといってわたしの信念や行動は変わらない。控訴に向けて弁護士と話し合いたい。」

としていたが、その後控訴しない方針を明らかにした。

「判決を熟読すると、猫の命を尊重する行動は相当認められており、大きな不満はない」と話している。

ペットの飼育あるいは野良猫・犬をペットのように飼育することについては非常に多くのパターンがあり、紛争のタネとなっていることが窺われます。

 

ペット飼育にともなう問題点のあれこれ

この問題を整理してみます。

ペット飼育によるトラブルは、戸建て住宅、マンションにかかわらずよく聞かれます。特にマンションは住戸が隣接していたり、エントランスホールやエレベーターなど密閉された空間が多いため、鳴き声や抜け毛、臭いなどの影響が出やすい構造になっています。つまりマンションでは、ペット飼育は単にお部屋の中だけの問題にとどまらず、共用部分へも被害が波及する可能性が非常に高いのです。

具体的には、まず鳴き声による騒音、糞や尿による臭気、咬傷等の事故など、他の居住者におよぼす迷惑や被害が挙げられます。共用部分の汚れや損傷、ペットに寄生する害虫や病気の感染等も無視できません。

こうした理由から、使用細則に「他の居住者に危害・鳴き声・悪臭等の影響を及ぼす恐れのある動物の飼育禁止」などと定め、「原則として飼育禁止」としているマンションが多いと思われます。実際のところ、迷惑は人によって感じ方が違い、その基準は曖昧ですから、こうした使用細則では具体的にどんな迷惑を及ぼしているかが明確でなければ、ペット飼育が規約に違反しているというだけで飼育禁止とか損害賠償ということにはならないのです。

トラブル解決に向けて

ペット飼育に関するトラブルを解決するには、まず管理組合の立場をはっきりさせることが必要です。考え方としては、

  1. 「全面禁止」
  2. 現状飼育されているペットについては認め、新しいペット飼育を禁止する、いわゆる「一代限りの飼育許可」
  3. 管理規約・飼育細則等で一定のルールを定めて、その範囲内の飼育を認める「条件付許可」

の3パターンに集約されると考えていいでしょう。

 

ペット問題は、マンションのトラブルの中でも人間の情がからむため、規約で一律に解決することが難しい問題です。したがって、いずれの方法を選ぶかは、個々のマンションの構造や環境、居住者の意見に応じて決めることが大切です。

なお、実際に作成された「ペット飼育細則」の例を見てみると、

  1. 飼育できるペットの範囲
  2. 飼育の申請
  3. 申請の添付書類の提出
  4. 飼育ペットの明示
  5. 遵守事項
  6. 違反に対する措置等

を規定しているものが多いようです。

 

自主規制する「ペット飼育委員会」の有効性

参考までに、マンションでペットを飼育する人達全員により「ペット飼育委員会」という組織をつくった管理組合の例をご紹介します。

このペット委員会の目的は、一言でいえば、飼育者組織が一体となってペットを飼っていない人に迷惑をかけないよう努力すること、またペットを飼う人と飼わない人との円滑な関係を目指しています。

さらに、管理組合との関係も次のように明確化してあります。

  • 管理組合とは別組織にし、理事長とペット飼育委員会長は兼任できないこと。
  • ペットに関する苦情は理事長からペット委員会に報告し、ペット委員会で改善策まで含めて審議し、結果は理事会に報告すること。
  • 改善されない場合は、理事長が飼育禁止をいいわたすことができることなど。

 

ペット飼育にかかわるトラブルを見ると、飼い主がしつけや配慮を怠ったために問題が起きたのではないかと思われるものも少なくありません。その意味で、このような飼育者組織を結成し、飼い方の自主規制を行っていくのも有効な方法といえるでしょう。