マンション管理士の森です。このコーナーでは、マンションを取り巻くトラブル事例を中心に毎回テーマを1つとりあげ、解決策を見つけていきたいと思います。
前2回にわたり「理事の選任問題」をとりあげました。今回は理事長職の権利・義務について考えてみたいと思います。
理事長は、どのような義務があり、どのような権利があるのかを正確に把握しておくことが、管理組合運営に欠かせない問題となります。
理事長は管理組合を代表する者であり、規約において区分所有法(以下「法」と呼ぶ)上の「管理者」とする旨定めているのが通常です。したがって、理事長は区分所有法第1章第4節「管理者」の規定の適用を受けることになります。
区分所有法上の管理者の権利・義務を列記しますと以下のとおりです。
主な職務上の義務として
- 集会において毎年1回一定時期に、その事務に関する報告をしなければなりません。(法第43条)
- 規約、議事録、書面決議の書面を保管し、利害関係人から請求があった場合は閲覧させなければなりません(法第33条第1項、第2項、第42条第3項、第45条第2項)
- 管理者は民法の委任の規定により、その事務を処理するにつき善良な管理者の注意義務を負い、その義務を怠って区分所有者に損害を与えたときは、これを賠償する責任を負うほか、事務の処理に当たって受け取った金銭その他の物を区分所有者に引き渡す義務等を負います。
主な職務上の権限として
- 共用部分、敷地、付属施設の保存行為を行う権限を有します。保存行為とは日常の軽微な修繕、施設の点検等共有財産の現状を維持するために必要な行為をいいます。
- 管理組合の集会の決議を実行し、規約で管理者の職務権限に属するとされている事項を実施しなければなりません。
- 損害保険契約に基づく保険金額並びに共有部分等について生じた損害賠償金、及び不当利得による変還金の請求および受領につき、区分所有者を代理する権限を有します。(法第26条第2項)
- 規約または集会の決議により、その職務に関し、区分所有者のために裁判の原告または被告になることができます(法第26条第4項)
- 集会の招集権を有します。なお少なくとも、毎年1回は集会を招集する義務があります。(法第34条第1項、第2項)
- 規約に特別の定めがあるときは、管理者は共用部分を所有することができます。(法第27条)
「管理組合の集会の決議を実行する」とありますが、やる気のない理事長が就任した場合、集会の決議を実行に移さないという、不作為でのトラブルがたまに報告されます。それにより損害が発生した場合には、正当な理由がない場合、賠償責任を負担するということになりますので注意が必要です。
≪参照 区分所有法第1章第4節「管理者」の規定≫
(選任及び解任)
第25条
- 区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。
- 管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができる。
(権限)
第26条
- 管理者は、共用部分並びに第二十一条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第四十七条第六項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。
- 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第十八条第四項(第二十一条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。
- 管理者の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
- 管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。
- 管理者は、前項の規約により原告又は被告となつたときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第三十五条第二項から第四項までの規定を準用する。
(管理所有)
第27条
- 管理者は、規約に特別の定めがあるときは、共用部分を所有することができる。
- 第六条第二項及び第二十条の規定は、前項の場合に準用する。
(委任の規定の準用)
第28条
この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。
(区分所有者の責任等)
第29条
- 管理者がその職務の範囲内において第三者との間にした行為につき、区分所有者がその責めに任ずべき割合は、第十四条に定める割合と同一の割合とする。ただし、規約で建物並びにその敷地及び附属施設の管理に要する経費につき、負担の割合が定められているときは、その割合による。
- 前項の行為により第三者が区分所有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行うことができる。